10 ピース オブ ケイク(利用でいいよ)

 殴られたり、蹴られたりすることは無かった。
 ただ、無視されるだけ。存在を、なかったことにされるだけだ。
「おいこら、金寄越せ」
 本来父と呼ぶべき男は、帰ってくるとまず金を要求する。アルコール依存症だから、アルコールを切らすと手が付けられないほどに暴れるので、母は仕方なく金を与える。酒を買う。賭博をする。すぐになくなる。帰ってきて金をせびる。この繰り返し。
 アキには決して暴力を振るわなかったが、それを取り返すように、母には激しい暴力と罵倒を浴びせ続けた。人は長い間否定され続けると、自分の頭で考えることができなくなるらしい。まだ小学生だったアキが離婚をすすめても、福祉事務所に相談しようとしても、母は頑なに首を横に振った。
「私が悪いのよ」
 父を裏切ったことがあるのだ、と母は言う。そのせいで、彼は疑り深くなり、暴力で支配するようになったのだと。私の責任だから、仕方がない。そんな風にいつも母は言ったが、アキには思考を停止しているようにしか見えなかった。
 父と母はそれでいいのかもしれない。彼らの中に、もしかすると暴力でしか分かち合えない何かがあるのかもしれない。だが、それは自分には関係がないのだ。何故、それによって生活苦を味わわなければならないのだろうか。必要最低限な学費や生活に使うお金まで、何故母は父に与えるのだろう。
 母は美しい女だった。夜の仕事で、十分すぎるほどお金を稼ぐことができたし、もっと上等な男と出会うことも出来たはずだ。それなのに、何故自分に暴力をふるい、働くこともしないゴミのような男を切らないのだろう。
 目の前で何度も繰り広げられる惨事に、アキはやがて口を閉ざすようになった。間に入って止めることも、人を呼ぶこともしなくなった。ひとめを引く、子どもならざる美しさを持っていたアキのことを、団地中の人々が心配してくれたし、あまりにも激しいと仲裁に入ってくれることもあった。けれどもアキは、次第に他人事のように、自分の部屋で本を読み続けたり聞こえないふりをするようになった。
 どうでもよかった。どうせ、やめる気がないのだ。
 理由は分からないが母は殴られることを望んでいるし、父は母を殴ったり侮辱したりしたくてたまらないらしい。
(こんな風に、なんともおもわへんのは、おれも親父の血を引いてるからなんかな。おれも冷血で、性根が腐ってんのかな)
 大声、陶器が割れる音、泣き声。苦しい生活。
 それらに慣れ始めた頃、彼ら親子はやってきたのだ。アキが欲しくてたまらない、羨んで止まない暖かい家庭の空気を身にまとって。
 摂とその父親である聡が向かいの部屋に越してきたのは、アキが小学校三年生に上がったころのことだった。彼等の母親は他界していたが、仲のいい親子で、団地の公園で度々キャッチボールをして遊んでいるのを見かけた。
 温厚そうな聡と、楽しげな摂の姿は、アキの胸の奥にどす黒い感情を湧き立たせた。彼らはきっと給食費を払っていないことを担任にそれとなく咎められることも、身なりのみすぼらしさを指摘されて惨めな思いをすることもないのだ。両親のことで口さがない噂をされたり、見た目だけは美しいからと、お金をちらつかされて売春を要求されることも、ないに違いない。あの優しい父親がいつも見守り、そういうことを防いでくれるのだろう。
(もしも、おれにふつうの父親がいたら)
 豊かじゃなくてもいい。ただ、普通に愛し愛される両親がいれば。それだけでよかったのに。どうしてあいつなんだろう。どうして自分じゃないんだろう。どうして子供は生まれてくることも生まれてきてからどう育つかも選ぶことが出来ないんだろう。
(こんなのは、不平等だ。初めから負けることを決められているゲームのようなものだ)
 アキは摂と接することを極力避けた。話したりすれば、きっと酷い事をしてしまうだろうと思ったのだ。お前なんか不幸になってしまえばいい、とか、お前がどうか地獄に堕ちますように、とか、とても口には出せないことを、見かけるたびに心の中で叫んだ。ただの妬みだ、なんて醜いんだと思えば思うほど、ますます憎しみは募る。
(あいつらさえ来なければ、こんな気持ちにならずにすんだのに)
 その日も、ふらりと帰ってきた父親が、出勤前の母親と口論を始めた。アキは部屋から抜け出して、一人団地の中の公園のベンチに座り、時間を過ごした。小学校は終わるのが早いから、どうしても家にいる時間が長くなる。苦痛だった。早く中学生になって、部活でもやって、家に帰る時間をなるべく遅くしたいと思っていた。
「きみ、時々ここに座ってるけど、すごい可愛いよね」
 スーツを着た男が、目の前に二人立っている。公園の端に視線をずらすと、時折このあたりでみかける、黒いミニバンが止まっていた。
「お腹空いてない?おじさん、ゲームボーイ持ってるけど、やる?」
 もう一人の男は、公園の入り口に移動して周囲の様子をうかがっている。まだ子供のアキにも、この二人がおかしいことぐらいすぐに分かった。
「いらん」
 ベンチから降りて、走り去ろうとする。腕を掴まれた。
「お金の方がええんやったら、お金あげるよ」
「大声上げんぞ、変態!」
 砂を蹴りあげて、逃げようとする。口に何か布を突っ込まれ、肩に担がれた。手足をばたつかせても、声が出ないから誰も気づかない。
「おい、車出せ!」
(いやや、気持ち悪い、怖い、助けて!)
 その時、公園の入口にいた男が慌てて走ってきた。後ろから猛然と追いかけてきたのは、聡だ。右手に竹刀を持って、後ろから逃げる男を滅多打ちにしている。
「何やってんねんお前ら!!」
 男は最後まであきらめきれなかったのか、車のところまでアキを担いで行ったが、竹刀をもって追いかけてくる聡、それに巨大な石を投げつけてくる摂に観念したようだった。車に乗る直前にアキを投げ捨て、大慌てで発車していった。
――もう一人の男を、その場に残したままで。

「大丈夫か?怪我してへんか?」
 警察の事情聴取が終わって、三人で帰路についた。呆然としているうちに色々なことが進んで、泣いている暇も驚いている暇もなかった。
 コクコクと頷けば、聡は、破顔した。
「良かったあ。摂がな、教えてくれたんや。変な奴がずっと前から、君の周りウロウロしてるゆうて」
 聡の運転するワゴンの後部座席から、驚いて助手席に座る摂を見た。彼は、照れたように顔を背ける。
「ずっと友達になりたかってんて。それで、声かける機会伺ってたんやで。こいつ、めっちゃ人見知りやからなあー、なっさけないやろ。アハハ」
「うっさいなあ。余計なこというな、ハゲ親父」
「ハゲてへん!ふさふさや!縁起でもないこと言うな!」
「絶対そのうちはげる。だってじいちゃん剥げてるし。未来ハゲ親父」
「あーもう摂はほんまに、内弁慶やな。お父さんにいつも喋ってるみたいに、この子にもしゃべったらええんやで。そんなんやから、友達できへんねん。今日な、『一人やったら声かけられへんからぁ~お父さ~ん側におってぇ~』ってゆうてな、それでおれ側におったんや。結果的には良かったけどなあ」
「ほんま黙って…ちゃうから。そんなん、ちゃうから!」
 人見知りで、不器用なのは本当なのだろう。上手く言葉が出てこないのか、摂は違う、という言葉を連発しながら手を振っている。
「…ッは、あはは!」
 面白くて、それに自分がばかばかしくて、アキは笑った。
 羨んでいるぐらいなら、近づけばよかったのだ。この気持ちのいい親子と、うんと近づいて、その幸福を分けてもらえばよかった。
 今のように。
「摂ってゆうの?」
 アキが真っ直ぐに摂を見る。恥ずかしいのか、摂は目を逸らしてしまう。
「うん」
「おれは、アキっていうねん。三嶋顕」
「知ってる。学校でも席近いし」
「そっか。そうやっけ」
「だって目立つもん、お前」
「そお?あー、でもおれいっつも本読んでるか、寝てるからなあ。クラスの奴全然知らんわ」
「アキはいっつも本読んでるな。あれって、面白い?」
「どうやろ。面白いかどうかは、読んだ人が決めるんちゃう」
 信号待ちの聡が、そら、そのとおりやな!と笑う。お前もちょっとは本でも読めよ、マンガばっかり読んでんと、と頭をぐしゃぐしゃ撫でまわす。
 眩しくて羨ましくて、アキは目を伏せる。
(いいなあ。こういうのが、普通の親子なんやろうなあ)
 頭に、何かが触れる。聡の、暖かく大きい手だった。
「アキも、よう泣かへんかったなあ!怖かったやろ、ようがんばった」
 摂に対するそれよりも、ずっとやさしく、丁寧に。聡の手がアキの頭を撫でる。ちらりと信号を確認してから、振り返って、優しく抱きしめられた。
 それまでこわばっていたアキの身体が、弛緩していく。
「おれ、頑張ってなんか………うわーん」
 突然何かが弾けたように、声を上げて泣き出した。
 本当は怖かった。恐ろしかった。誰かに助けてほしかった。
 ――ずっと、頭を撫でてほしかった。抱きしめてほしかった。
 それが思わぬ形で叶って、感情を抑えることができない。
 聡と摂がおろおろするような勢いで、アキは泣いた。生まれて初めて、心に触れられた気がした。それは、思っていたよりもずっと熱かった。熱くて、柔らかくて、もう一度欲しくなる。
 うろたえていた摂が、決心したように、アキの手を取り、握った。体温がしみこんできて、アキの冷たい指を温めていく。
「もう大丈夫。おれがおるよ」
 その日を境に、全ては動き出した。
 修復不可能な破滅に向かって。

 浅い眠りから覚めて、息を呑む。
 視界に見えるのはいつもの天井だ。ここに引っ越すことが決まってから、慌てて探して購入したタワーマンションの一室。手探りで、リモコンを探して電気をつける。
 全身に、じっとりと汗をかいていた。鏡を見れば、頬には涙が流れた後が残っている。
「…摂」
 今日はもう眠れそうにない。ただでさえ寝付くのに苦労したのだ。
(昼間の、救急隊の男。あれはやっぱり…)
 随分精悍な顔立ちになっていた。日に焼けて、少しくたびれていたが、間違いない。
(あの声。低くて柔らかくて、安心する声。それに、あの眼)
 クーラーの温度を低くして、洗面所で顔を洗う。
 こんな偶然があり得るのだろうか。
 もう二度と会う事はないと思っていたし、後押ししたのも自分だ。様々な事にけじめをつけて、捨てて、生まれ変わるつもりでやってきた場所で、再会するなんて。
 どんなに年月が経っても、捨てることのできない後悔がある。
(あのとき、もしも、聡さんを助けることができていたら)
(あのとき、もしも、おれがあんなことをしなければ…)

(摂は、今でも側にいただろうか)

 千早の働いているバーは、東京メトロ「浅草駅」から徒歩五分ほどのところにあった。
『アキ?…どうしたの、元気ないね』
 携帯電話越しに聞こえる千早の声は、くぐもっていて、夜の匂いがする。小さな音で聞こえてくるジャズピアノの音は、店内のBGMだろうか。
「…今から飲みに行こうかと思って。場所、どこ?」
『ワオ!マジで。えっと…じゃあ電話切ってから、食べログのアドレスでも送るね。頼んでないのにのせてくれたお客さんがいてさー、褒められるのは嬉しいん だけど、点数つけられるって微妙だよね。ここがおれのいちばんの店だー!とかいいつつ、点数三.五とかさ。それなら五点つけてくれって』
 くすっと笑ったアキに、千早は嬉しそうに言った。
『今日は、病院はお休み?三嶋先生』
「その呼び方はやめて。夜勤の日以外は、大体七時半までには上がれるよ」
『そうなんだ。明日のご予定は?』
「明日は休み」
『いいね。一番いい席、今なら空いてるよ。今七時四十分だから…来る頃には九時前かな?混みだす時間だけど、なんとかキープするよ。特等席はなんと、おれの目の前!』
 九月も終わりを迎えようとしている。地下鉄の駅から街の中へ出ると、むっとした空気が顔を撫でていく。やはり、東京は夜でも暑い。
 店の前に到着すると、しばらくドアの前で立ち尽くした。いわく、「じいちゃんから任されてるボロいビルの、一階でほそぼそとやってる」というバーは、想像よりもずっと立派だった。重厚な木のドアに、筆記体でかかれた『Bar the Autumn』という白い文字。控えめな照明で照らされたその文字を、アキは何度か頭の中で発音した。
 ドアを開けると、中はほとんど満席だった。カウンターしかない細長い店だが、ほのぐらい照明の中でカウンターと千早が浮かび上がっているように見える。
「いらっしゃいませ。こちらにおかけください」
 ドアベルの音と共に、ドアが閉まる。ネクタイを締め、白いシャツにベストを身にまとった千早は、ホテルで見かけたときよりもずっと大人びて見えた。
 冷たいおしぼりを出されて、手を拭きながら顔を上げる。優しく微笑んだまま、「ご注文はいかがいたしましょうか?」と促され、アキも微笑み返す。途端に、千早は恥ずかしそうに視線を下げてしまった。
「フローズンダイキリを」
「かしこまりました」
 首筋を汗が流れていく。いいことだな、とアキは思った。病院では、ほとんど汗をかかない。オペが長引いた時以外は。
 隣の客が、チラチラとこちらを見ているのが分かって、アキは視線が合わないように仕事中の千早を眺めた。カウンターの中にいるのは千早と、同じ出で立ち をした、もう一人の男性の二人だけだ。彼は目つきが悪く、額から頬にかけて目立つ傷があったが、客と話すときは優しい顔をしていた。
 他の客にウィスキー・オン・ザ・ロックを出してから、千早が戻ってきてシェーカーを振る。ごく自然で、無駄な力が一切入っていない、美しい動作だった。 底が広くなっているカクテルグラスに、ソフトクリームのように盛りつけて、チェリーを添えて、アキの前に置く。
「お待たせいたしました」
「乾杯しよ、千早。飲み物は?」
「さっき頂いたビールが」
「乾杯」
 グラスを軽く掲げて、乾杯する。スプーンで、アイスを食べるようにフローズンダイキリを口に入れた。頭の中がキンとして、甘酸っぱさが広がっていく。
「美味しい。外、暑かったからさ」
「そうなんだ。冷房もうちょっと下げようか?」
「大丈夫、ありがとう」
 小さい声で会話をする。千早の視線の中にも確かに欲望はあるのに、不快に感じないのが不思議だった。あの医師とどう違うのだろう、とアキはぼんやり考えた。
(見た目がタイプやから…とか?若いから、とか。うーん、分からん)
 カウンターの中を観察していると、彼らは半分ずつ受け持ちを決めているらしかった。カウンター中央から向かって左半分が千早、右半分が傷の男、というように。あと、会計をするのはなぜか傷の男だった。
「おれ、お金の取り扱いって苦手でさ」
 アキの視線を感じたのか、千早がこちらにやってきて囁く。
「藤堂さんにお任せしてるんだ。彼はじいちゃんの一番弟子なんだよ、ここらじゃ一番有名なバーテンダーさ」
「へえ…なんかこう、ハードボイルド、って感じだね」
「アハハ、本人喜ぶよ、それ」
「そう?あ、次はジントニックを下さい」
「かしこまりました。…藤堂さんは美人が苦手だから、さっきからアキのほうを見ようともしない。まさにハードボイルド、タフガイを地でいってるよね」
 声を出して笑ってしまう。千早が舌を出して、空になったグラスを下げてから呼ばれた別の客のところへ行く。
 酔い過ぎてしまわないように、ゆっくりと飲みながら時間を過ごす。灰皿を引き寄せ、手持ちのマッチでタバコに火をつけた。煙を吸い込み、ゆっくりと吐く。白い煙が、通気口の中へと飲み込まれて消えていく。
 水曜日ということもあって、客たちは十一時前になると徐々に帰路につきはじめる。たまたま客がアキだけになった一一時過ぎ頃、千早は傷の男に何か耳打ちをした。
「先に上がらせてもらうことにしたよ。アキ、上に行こうか」
 四杯目の酒を飲みほし、グラスを渡したところで、千早がそう言った。
「上って?」
「住居になってるんだ。おれの家だよ、じいちゃんの家でもあったけど今入院してるから、おれしか住んでない。二人でゆっくり飲みなおそう」
 他に誰もいないのを良い事に、千早はアキの頬に指を滑らせ、眼を細めた。あの男に見られたらどうするんだろう、と視線を走らせると、しっかり見られていて慌てて顔を背けられる。
「分かった、じゃあお会計を」
「そこは藤堂さんにお願いするよ」
 ほろ酔いで気分が良くなったアキは、階段をのぼりながら千早にもたれかかる。まだ酔ってないくせに、と笑われて、ますます調子に乗った。
 どうぞ、と案内された部屋は、コンクリート打ちっぱなしの壁にレコードの棚が打ちつけられている、どことなく雑多な空間だった。びっしりと並べられたジャズレコードと、たくさんの楽譜と、高そうなピアノが部屋の主役を買って出ている。
 その近くに置かれたソファを案内されて、アキはそこに座った。
「何を飲む?ほら、こっちも軽くバーにできるぐらいには揃ってるんだよ」
 対面式になっているキッチンカウンターには、スツールも二脚ある。所せましと酒瓶が並んでいて、プライベート・バーのようだ。
「じゃあ…ソーダ水を貰おうかな」
 いたずらっぽく言うと、千早が嬉しそうに笑った。
「かしこまりました」
 ウィスキーグラスに丸い氷と共に注がれたソーダ水を傾けながら、隣に座った千早を盗み見る。すでにその腕は、ソファの背に回されていて用意周到だなと思った。
「千早、ソーダ水に氷をいれたら炭酸が抜けるんだけど」
「うん、知っててそうしてるよ。…セックスするときにさ、げっぷが出たら嫌だろ?」
 グラスが空になったのを見計らって、千早がアキをソファに押し倒した。半袖のシャツのボタンを、もどかしそうに外しながら「あー、待ちくたびれた」と溜息をつかれる。
「アキ…またあえて嬉しいな。来てくれてありがとう」
 唇が、開いたシャツの間をたどり始める。鎖骨の上を甘噛みされて、アキは鼻にかかった声を上げた。その声に興奮したのか、千早の頬が赤くなる。
 明るい部屋の中で、お互いの顔は見えすぎるぐらいに見えた。
「千早とまた、したくなってしまって」
「男冥利につきるなー、愛してるって言われるよりずっと嬉しいや」
 電気を消すつもりはないのだろう。狭いソファで、千早はアキのシャツを巧みに脱がせ、デニムを足から外して、下着だけにする。
「世の中には二つのタイプの男がいるんだよ」
 千早のシャツのボタンをはずしているアキに、ニヤリと笑いながら言う。
「ふうん?」
 相槌をうつ。千早の指が、アキの下着の中へ侵入していやらしく蠢く。熱い溜息が零れる。
「酒を飲むとセックスしたくなる男と、酒を飲むとセックスできなくなる男さ」
「…千早は?」
 見上げる視線のいやらしさは自覚していた。目のふちを赤く染めながら、アキが微笑む。千早が生唾を飲み込んで、喉仏が上下する。その動きで汗がひとしずく、落ちてくる。
「おれはいつでもできる男だよ。…尊敬した?」
「バーカ」
「アキは、前者かな」
 返事のかわりに、アキはこれみよがしに唇を舐めてみせる。千早の目に獰猛さが浮かんで、口を覆うように激しく口づけられる。息が苦しいほどのキスだ。舌がいきものみたいにアキをとらえ、追い詰め、食べようとする。
「っ、ふ」
「アキ…」
 会いたかった。会いたくて死にそうだった。来てくれてありがとう。
 千早が耳元で囁く声に、アキは身体を震わせる。指が胸を撫で、嫌らしく先を掴んで、痛いと気持ちいいの間の強さでこね回す。あまりにじっと見られるのが 恥ずかしくて顔を背けると、あらわになった白い耳に千早が舌を這わせた。その間も、指はアキの身体を苛む。
「アキって、何かいい匂いするよね。香水とかつけてる?」
「何も…つけてない」
 千早が硬くなった自分のペニスとアキのそれを一緒に掴んで擦り始める。ローションで濡れたそこは、ぬるぬるとして気持ちがよかった。手をつかまれ、手のひらごと握り込まれて上下に擦られて、アキは眉を寄せて溜息をもらす。
「その顔、やばい。…自分がこういうときどんな顔してるか、しらないだろ…っ」
 余裕のない声で、千早が言った。手の動きが早くなって、ぬちょぬちょと耳をふさぎたくなるような水音が響く。
「あ、あっ…いや、見るな」
 顔を隠したくても、片手を奪われているせいで隠せない。
「良い顔…もっとみせて」
 覆いかぶさってきて、キスをされる。息も絶え絶えになる、例のキスだ。気持ち良くて、アキは声も出さずに先に達した。その顔を真剣な顔で見てから、千早も達する。アキの白い腹に、たっぷりとぶちまけて荒い息を吐く。
「千早…キス上手やね」
「その言い方いやらしいな、これ以上興奮させてどうすんの」
 片足をソファの背にかけられ、足を広げられる。ローションで濡らされた指が一本ずつ入ってきて、気持ち悪さと気持ちよさが背筋を駆け抜けていく。
「明るすぎる…」
「アキも男だからさ、分かるだろ。みたいんだよ、男って生き物は」
「うう…っ」
 声を我慢するのに、拳を噛むクセがあることを千早は早々に見抜いていて、アキがそうしようとするとその手をすぐにソファに縫い付けてしまう。抑えきれな い官能に淫らな声が喉の奥から漏れる。これまでの人生で出したことのないような声が、次から次へと湧いてくる。
 アキの準備を終わらせたら、千早がゆっくりと入ってきた。全て知り尽くしているみたいに、気持ちのいいところを的確に擦って、突いて、出し入れされる。眉を寄せた苦しそうな顔と目が合うと、微笑んで額にキスを落とされた。
(摂、全然変わってなかった)
 セックスの真っ最中に別の人間のことを考えるなんて、不謹慎だと分かっている。それでも、アキはやめられない。千早と交わりながら摂のことを考えると、どうしようもなく興奮するからだった。
 開いた足を捕まれ、膝が顔につくのではないかと思うほど押し付けられる。千早のものが当たる場所が変わって、やんわりとした刺激から直接的な刺激にシフトする。声が止まらない。気持ち良くて死にそうだった。
「千早あ…気持ちいい…もっとして…!」
 膝とひざの間から見えるアキの顔は、汗でしっとりと濡れている。赤みのさした頬、開いた唇の隙間から見える、真っ白な歯と赤い舌。黒くうるんだ、アーモンドアイズ。完璧な造形がいやらしく乱れた時、不完全なものが乱れるよりも一層淫らだった。
 千早は達しそうになるのを抑えるために、一度引き抜いてソファに座った。突然抜き去られたアキが、「くうっ」っと子犬のような声を上げたので、危うく一人でイキそうになって必死で堪える。
「アキ、上にのって」
 ソファにもたれるように座っている千早は、脱ぎ掛けのシャツを床に落としてアキの腕を引いた。お願いではなく命令だ、と言わんばかりに腰を掴み、強引に自分の上に落とそうとする。早く欲しくて、アキは誘われるままに腰を落とす。
 先が入ったところで千早が腰を揺らせて、少しずつ侵入してきた。ソファのスプリングを利用して、上下にゆするように動かれる。
「あ、あ、…そこ…」
「気持ちいいように動いていいよ、アキ」
 千早の首に腕を回し、抱きしめる。耳元で「千早のいいようにして」とささやくと、興奮した千早が滅茶苦茶に腰を振った。ソファがギシギシと音を立てて、壊れてしまうのではないかと心配になる。
「中に…出していい?もうおれダメだ、いきそう」
 苦しそうな顔。アキは、千早のこの顔が好きだ。
(すっごい、良い顔。おれがさせてると思ったら、たまんない)
「いいよ…、千早、好きにして」
 尻を掴まれ、音がなるほど強く叩きつけられる。長い溜息と一緒に、千早のあたたかい体液がアキの中へ注ぎこまれて、その感覚で身震いしながらアキも達した。

「おれ、した後一緒にお風呂入るの好きなんだよな」
「…女の子みたいだな」
「そお?あー、でもそうかも。こう見えてロマンチストだから」
 どこのラブホテルだよ、と突っ込みたくなるような、ガラスのドアを開きながら千早が言った。バスタブに向かい合って浸かると、千早は色気もへったくれもなく「あーきもちよかった!」と爽やかに笑った。
「…色気ないわあー…」
「あ、それそれ。絶対さ、そっちの方がいいって。仕事中は標準語でいいと思うけどさ、普段はそっちでいいじゃんか。ええと、関西弁?」
「大阪弁…ま、どっちでもええけど」
「おれの前でだけそうだと、スペシャル感あるし最高」
 無邪気な笑顔に、アキはきまりが悪くなる。
「スペシャル……」
 罪悪感が顔に出ていたのか、千早が手のひらで額を叩いてくる。
「そんな顔すんなよ、好きな奴がいるんだろ?分かってるから大丈夫だって」
「利用してるんやけど、ほんまにええの」
「利用でいいよ。おれが好きなのは、アキの顔と身体だから。別に心を求めてるわけじゃないから、お互い様ってこと。似ててラッキーだって言ったじゃん」
 あっけらかんと言い放つ。アキは目を丸くした。
「そんなやつ、はじめてみた」
「いるんだよ。世の中は広いし、愛は色々ある」
 一人頷きながら千早が言う。
「じゃあ、おれのことも利用して。いざってときは。な?」
 真剣な顔でアキが言うと、千早はヘラリと笑う。
「セックスで利用させてもらってるけど。思い切り欲望のはけ口にしてるし」
 あまりの言いように、千早の頬をつねると大げさに痛がられた。
「他に言い方ないんかっアホっ」
「ひゅいまへんれした」
 手を離す。なんとなく可笑しくなって、二人で笑い合った。
「じゃあ、いざってときは利用させてもらうから、好きなだけおれのこと利用してよ」
「約束な。金でも物でも、利用したいときはなんでも言って。何せ有り余ってる」
「かっこいー、言ってみたいわそんなセリフ。その顔でそんなこと言ったら、大概の女はさっさと足開いてくれそう」
「それで開いてくれる女なんか、願い下げやな」
 二人で身体を流して、頭を洗ってからリビングに出る。ビールだけは缶しかないけど、と差し出されて、ソファの上で一気飲みした。開いた窓から、湿った晩夏の風が都会の匂いをさせながら入ってくる。
「…なんか、焼き鳥の匂いせえへん?」
「あー、お向かいが焼き鳥屋さんだから。美味しいよ、結構老舗なんだ」
 隣に座った千早が、タオルで頭を拭きながら答える。テーブルがないので、床に直置きしたビールの塔から、もう一本頂戴した。
「なあ、千早、何か弾いてよ」
 目の前のピアノを見ていると、どうしても聴きたくなってしまう。プロ相手に無銭で弾かせるのも悪いので、1万円札をボクサーパンツに挟み込んだ。
「うわっ、なにこれストリッパーみたい!」
「おにいさーん、お礼弾むから一曲弾いて!」
 わざと観客のようにアキが煽る。ばっきゃろー金じゃねえんだよ!と千早が笑った。
「キスさせてくれたらタダでいいよ、おれは愛に生きてるから」
「はい出ました意味不明」
「美しい顔って得だよな~」
 突き返そうとされた紙幣を押し返して、千早の頬にキスをする。そのまま耳元で囁いた。
「受け取ってよ。おれが渡せるのは、顔と身体とお金だけやし」
「ろくでなしそのものの言葉だな!嫌いじゃない!」
 ゲラゲラ笑った後じゃあこうしよう、と言って千早はその一万円札を、空っぽのキャンディボックスの中に入れた。
「ここに貯金していって、十万貯まったら旅行にいこっか」
 ニターと笑う。頭の中が丸見えだ、とアキは呆れた。
「お前いやらしいこと考えてるやろ」
「やらしいことしか考えてないよ。若いからね、何せ23歳だよ?」
「……」
 じっとりと睨まれた千早が、口笛を吹きながら楽譜の棚の前に立つ。リクエストは?と問われて、アキは考え込んだ。
 普段、音楽はあまり聴かない。仕事の合間に空いた時間は、論文や学会、専門書で勉強しなければならないから、趣味に割く時間がないのだ。医師という仕事 は一生勉強し続けなければならず、そういう意味では飽きっぽいアキにぴったりの仕事だと言えた。
(それゆえ、流行りの音楽や文化的な流行には、置いて行かれる一方やけど)
「ジャズは、勉強の邪魔にならへんから時々聴くねんけど…やっぱり、ビル・エヴァンスかな?」
「おっ、王道きたね」
「My foolish heartがいいな、久しぶりにききたい」
「りょーかい。それなら楽譜なくても弾けるな」
 千早がピアノの前に座り、指をストレッチしてから弾きはじめる。美しい主旋律から始まるこの名曲を、千早はキラキラと眩しく、時折憂いを帯びながら演奏する。
「で、何があったの?」
「え?」
「当てようか。好きな奴と何かあった、違う?」
 目の前で弾いてくれた演奏の素晴らしさに、拍手する。短い曲なのですぐに終わってしまったが、千早は立ち上がって恭しく礼をした。
「長年居所不明で…吹っ切るために引っ越して来たら、先週なんと職場で再会した…」
「うわあ」
「この世界に神などいない、って思ったな、あれは」
「ある意味、神がかり的な確率だけどねえ…それにしても」
 立ち上がった千早が、ソファの前に立つ。借りたTシャツとジャージ姿のアキを見て、うーんと首を傾げた。
「あなたを好きにならないって、すごいよね。無理じゃない?ちゃんと告白したの?」
「できるわけないやん、相手は全くの異性愛者やねんから。風のウワサで結婚したって聞いてるし」
「アキは同性愛者?」
 その質問にしばらく考えて、首を振った。
「いや、女の人ともできるし、付き合ってたこともある。ただ…」
 千早がビールをあけて飲む。それから、視線で先を促された。
「女性とは、受動的なセックスしかできない。押し倒したり、襲ったり…そういうのしようとすると、吐きそうになる。向こうから来るのは大丈夫なんやけど」
「あ、わかった。両親のセックスでも目撃したんだろ?」
 千早があたり?と聞きながら鷹揚に笑う。咄嗟に声がでなかった。
「…すごい。なんでわかったん?まあふつうのセックスじゃなかったけど。殴ったり蹴ったりしながら犯すわけ。そしてそれを、おれに見せてくる。なんか分か らんけど二人の間でそういう倒錯したセックスがブームやったみたい。おかげで…女性を押し倒そうとすると、あのクソ親父の顔と怯えた母親の顔浮かんできて 全然無理」
 どうしてこんな話をしているんだろう、そう思いながらアキは淡々と聞かれたことを話す。
 千早には、聞かれるとなんでも話してしまう。
 これはきっと彼の才能なのだろう。
「そっか…それは無理もないかもね」
「まあ、おれを押し倒すのが大好き!っていう奇特な女性も結構いたから、彼女がいたこともあったけどな。やっぱり結婚したいとかはおもわへんよね。セックスもどっちがいいかっていうと、やっぱり抱くより抱かれるほうが気持ちいいし。大変困ったことに」
 レンジフードの下で吸ってもいい?と尋ねてから、アキはタバコに火をつける。空になったマッチ箱をつぶしていると、千早が側にきて笑った。
「どうして、いまどきマッチなのさ?ジッポぐらい買えるでしょ」
「執着するの、嫌やから」
 タバコの煙を細く吐いてから、アキがみじかく答えた。
「よく物を落としたりなくしたりするから、そういうときに落ち込みたくない。愛着湧いたら落ち込むやろ。使い捨てできるものはそれでいい」
「おれも飽きられたらマッチ箱と同じ運命か。気を付けよう」
 面白そうに笑いながら、千早が口づけてくる。先ほどまでと全く違う、軽く触れあうだけの優しいキスだった。目を閉じ、タバコを灰皿に押し付けて、丁寧に返す。
「そうだ、アキ。いい知らせと悪い知らせがある」
 わざとらしく、肩を竦めて俳優のような言い方で千早が言う。
「悪い知らせから聞こうか」
 アキが乗ると、千早は耳元にささやいた。
「ベッドは一台しかない」
「ふむ。いい知らせは?」
「そのベッドはキングサイズなんだ」
「どこがいい知らせや、アホ」
 軽く尻を蹴ると、千早は「夜は長い」と歌うように言った。

「…三嶋、声が掠れてるぞ。風邪か」
「いえ…ちょっと、歌い過ぎて。病気じゃないですから安心してください」
「お前な…そんな下手な言い訳があるか。熱はないんだろうな?」
 千早の家から帰宅したのは、翌日の昼過ぎだった。三日が過ぎた今でも、まだ声が掠れている。まさか「やり過ぎで声が嗄れました」とはとても言えず、誰がきいても分かるようなつまらない嘘をついてしまった。
「熱なんか無いですって。せっかく定時で上がれたんだし、早く帰りましょうよ」
「バカめ。こんな日は飲みに行くに限んだよ、付き合え。そうだな~~店はいつものとこにすっかな…おい、さっさと着替えろ」
 更衣室で一緒になったのが運の尽きだ。佐々木は昔から飲むのが大好きで、医学生のころは随分連れまわされた。
「おれの都合は無視ですか」
「なんだ、用事でもあんのか。どうせデートする相手もいないんだろう」
「フランスの友人から送ってもらった論文を読もうかと思っていたんです、アッペ開腹手術の際に発生しやすいSSIに関する画期的な…」
 内容を説明しようとしたところで、佐々木が強引に割って入る。
「だーっそんなもん明日だ明日!お前に紹介したい奴がいるんだよ」
「そういうの、いつも断ってるでしょ」
「女じゃねーよ。仕事絡みだ。お互い顔知ってるほうがいいと思うぞ」
 な?と満面の笑みで強引に病院から連れ出される。断られることなど、これっぽっちも想像していない顔だ。確かにアキは、佐々木の我儘に弱い。それは返しても返しきれない恩があると思っているからだった。
 10月に入って、気候はようやく涼しくなってきた。特に仕事終わりの七時過ぎには、汗をかかずに過ごすことができるほどだ。酒を飲むことが分かっていたので、車に佐々木を乗せ、自宅に置いてからふたり、徒歩で駅の繁華街へ向かう。引っ越してきてからも、街を探索する時間などあるはずもなく、アキは佐々木の 後を黙ってついて歩いた。街灯がともった細い、住宅街の道路をぬけると、駅前の商店街へ差し掛かる。酒の匂いや、ざわついた人の気配が迫ってきて、ふたりに沁みついている病院匂いを、一時的に追いやる。
 ベージュと白のボーダーTシャツに、紺色のカーディガンを羽織ったアキは、街の小さな商店街では酷く目立った。黒い艶のある髪が、歩くたびに揺れて跳ねるのを通りすがりの女性客たちは溜息混じりに盗み見る。
 何、あの人。テレビに出てきそう、知ってる?
 知らない。でも絶対、そういう仕事の人だよね。
 そんなやり取りが聞こえてきて、佐々木が苦笑した。
「やれやれ。おまえと歩いてると、おれはまるでかばん持ちにでもなった気分だぜ」
「残念です。カバンがあれば持ってもらうのに」
「三嶋ァ、お前ほんと口の減らねえ奴だなっ」
 週末の商店街は、飲みに来た客と買い物客でごった返している。その人の隙間をぬうように、佐々木が商店街から細い路地の中へ抜けて、提灯をさげた大きい、和風家屋の中へ入っていく。引き戸をあけて中へ入ると、畳の上にテーブルの並んだ、大きい一間の居酒屋になっていた。
「靴は脱いでそこにおいとけ。店が勝手にしまってくれらあ」
「脱ぐならもうちょっといい靴下履いてきたのになあ」
 アキの惚けた言いように、佐々木が噴き出す。
「急に男の家に連れ込まれちまった女みてえな言い分だな」
「あるあるですね。今日勝負下着じゃないよお~、みたいな」
「でもな、そういうときの気の抜けた女の下着の方が、おれは燃えるんだよな」
「先輩鼻の下伸びてますよ。ものすごいアホ面です、鏡があったらみせてやりたいわ」
 畳の広間は客で一杯だ。軽口をたたき合いながら給仕している店員と客の間をすり抜け、勝手知ったる様子で佐々木は奥の個室の前に立つ。
「遅れて悪かったな。口説き落とした美人連れてきたぞ!」
 スパーンと勢いよく襖を開く。突然のことに驚いたのか、数人の男が口を開けたままこちらを見ている。若くて、どこか品のある犬のような目をした青年と、少し太った人の好さそうな男。
 そして、一番目を瞠っている、アキがよく知っている男。
「あー、そんな気ィしたわ…」
 思わず独り言を漏らすアキを、佐々木が不思議そうな顔で振り返る。
「いや、こっちのことです。お気になさらず。みなさんどうも初めまして、…まあ、一人は初めましてじゃないですけどね」
 なんとなく嫌な予感がしたのについていったのは、心のどこかでそれを望んでいたからだと後から気づく。行きつけだという店のテーブルで顔を合わせたのは、今度こそ見間違いでも勘違いでもなく、完全な、『六人部摂』だった。