世界の終わりに見る夢は

3.

 好き嫌いや気分の波がないのが澤村の尊敬すべき点だ。
事件の性質から拘留が認められたものの、そのリミットまであと9時間しかないのに、澤村は焦らず、苛立たず、坂田美憂やその仲間を取り調べた。
「弁護士に何も言うなって言われてるし」
「ふうん。おかしな話だよね、何も悪いことしてないならそのまま言えばいいのに、っておれなんかは思うけど」
 澤村は鉛筆をくるくる回しながらのんきな声で言った。立会人として取調室の中に入ったおれに気づき、肩をすくめて眉を上げ、立ち上がる。
「手ごわいっす、やっぱやり手だな~あの女弁護士は」
 耳打ちされた内容に囁き返す。
「嘘をつくぐらいなら黙ってろってことだろ。真実の追求よりも、依頼人の利益を追求する。あいつらに正義なんかないんだよ」
 おれも澤村も弁護士が嫌いだ。必要な仕事だということは分かっているが、あの連中には正義がない。とくに刑事事件においては、依頼人の罪をいかに隠して刑を軽くするか、それにばかり腐心する。権利は主張するが、義務は果たさない。
弁護士法第一条にはこう書いてある。『基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする』と。けれど現実は、前半部分ばかりを喚きたて、後半部分に目を閉じ耳を塞ぐ弁護士がほとんどだった。
 澤村が坂田の正面から退いたので、代わりにおれが座った。取り調べは澤村にさせるつもりだったが、せっかくなので被疑者である坂田と向き合う。
 女子の取り調べは後の紛議を避けるため、立会人をつけることが多い。おれと澤村は仲がいいと思われているので、そういった場合よくニコイチで扱われた。
おれは淡々と証拠を並べ、黙っている彼女に同じ質問を繰り返した。爪をいじったり、髪を触ったりしている坂田は、それでも、耳はきちんと働いているらしかった。納得がいかないところがあると、時折眉をしかめたり、唇を歪めたりした。
「黙ってても長引くだけだぞ。一緒にやってた連中はもう全部吐いたし」
「……」
「ご両親も心配されてる。早く帰って安心させてやったらどうだ」
 本当に心配しているかどうかは知らない。ただ、犯罪を犯す少年は軒並み家庭になんらかの問題を抱えている。そこを突けば反応が返ってくることが多いのだ。
案の定、家のことに触れた途端、坂田美憂は怒りを滾らせた眼でおれを睨みつけて言った。
「あいつらは私の心配なんかしない。パパは家に寄り付かないし、ママは弟のことしか考えてない。あの家が嫌で、アタシは帰らなくなったんだから」
 パイプ椅子をひっぱってきた澤村が、おれの隣に座って腕を組み、首を傾げた。
「何が嫌だったの?坂田さんの家、すごい大きくてお金持ち~って感じだったっしょ」
 軽い話し方に内心舌打ちをしたくなったが、その軽さがいいのか、坂田は澤村のほうをみてから顔をしかめた。
「パパは弟の世話を全部ママにおしつけてる。お金さえ払えばいいと思ってるんだよ」
「弟の世話?弟さんって確か……、8歳か。6つ年下なんだね」
 捜査資料らしきものをパラパラとめくってから澤村が言った。澤村は軽薄だが顔はいいので、その笑顔につられるようにして坂田も顔をゆるめる。
「昔はかわいかったんだ。アタシのあとずっとついて回ってさ。絶対守ってやろうって思ってた、けど……」
 坂田の言葉に、おれは兄の至のことを思いだしていた。7つ年上の兄。何でもできてかっこいい、自慢の兄だった。おれが兄の後ろを急いで付いて回らなくても、兄は常におれのことを見守り、振り返って、追いつくのを待ってくれた。
「おれにも年の離れた兄がいるから、よくわかるよ」
 坂田がおれを見た。その眼には、みるみるうちに涙がたまっていった。
「今はもう、かわいいと思えない。重いんだよ」
 まるで自分が言われたように心が寒くなった。重い…、やはり、おれは重かったのだろうか。だから兄は家を出てしまったのか。ならばなぜ、何度も家に帰ってきたんだ?夏休みや年末年始のたびに叔父の家に帰ってきた兄は――どうしてあんなことをしたんだろう?
 ダメだ。事件のことに集中しろ。仕事中だというのに、先日兄に会ったせいですっかり思考が乱されている。
「重い、とは?」
 坂田は何か言おうと唇をひらき、青ざめた顔でひゅっと音をたててから飲み込んだ。ぼさぼさになった明るい髪と、けば立ったスウェット姿はお世辞にも美しいとは言えないのに、その瞬間だけはひどく大人びた、きれいな少女に見えた。
「弟には障害があんの。見た目には分かんないんだよ。大きい音や特定の匂いが苦手で、パニック起こしちゃうの。食べ物の好き嫌いも多い。だからママは、いつもアタシに言った。弟のことをみてやってね、自分は先に死ぬから、弟のことを助けてやってね、って。
――アタシは熱を出しても放っておかれた。いつもそうだったよ。弟の送り迎えがあるから。弟はひとりで学校にいけない。大きい音がしたらびっくりして走っていっちゃうから。いきなり街中で大きい声をだしてしゃがみこむこともある。障害だからしかたがないんだよ、弟は何も悪くないって、分かってても恥ずかしくて仕方なかった。弟のことが原因でクラスでもからかわれるようになった。家にも学校にも居場所がなかった」
 澤村は黙っていた。この男は、人の身の上話をすべて鼻くそとでも思っていそうなところがある。おれはと言えば、言葉に詰まった。今「正しいこと」を言うことに、何の意味があるだろうと考え込んでしまった。正しいことは、「だからといって、家を出てふらふらして、未成年なのにガールズバーで働き、美人局をして脅迫し、人にケガをさせていいということにはならない」、これだろう。けれど、その言葉に意味があるとは思えなかった。何の意味もない。坂田美憂は坂田美憂なりのやり方で、自分の人生と戦っていたのだ。やり方が間違えていただけで。
「一度ね、弟を公園に置いてきちゃったことがあるの。なんか、面倒で」
 ため息をつき、枝毛を見るフリをしながら、坂田がつぶやいた。
「このまま捨ててきちゃったら、いなくなったらいいのにって思って。だってそうでしょ?ママがしょっちゅうあちこち謝りに行ってるのも、パパが家に寄り付かないのも、アタシがクラスでからかわれたり外で恥ずかしい思いをするのも、全部弟のせいじゃん」
 おれは黙ってきいていた。坂田の話が自供につながるという確信はなかったが、話したいことを話させることは決して悪いことじゃない。信頼関係を築くきっかけになる。
「でもやっぱり気になって、弟が悪いわけじゃないんだって思って、1時間ぐらいで迎えに行ったよ。すごい泣いちゃって大変だったけど、一緒に家に帰った。そうしたら……」
 坂田は俯いて声を震わせ、言った。
「ママにものすごい剣幕で怒られたの。なんてひどいことをするんだって。どうしてずっと見てなかったんだって罵られて、叩かれて、そのときなんか切れちゃったの。どうでもいいやって。こんな家、めちゃくちゃになっちゃえばいいんだ。だってわたしが弟を作ったんじゃないのに、なんで弟の人生に責任なんか持たなきゃいけないの?おかしいでしょ?」
 ずっと我慢してきた、と坂田は言い、手の甲で乱暴に涙を拭った。
「弟のこと好きだった。でも今は好きじゃない。ママのことも。アタシにはもう関係ない。あんな家にいたくなかったから、友達の家を転々としてた」
 澤村が溜息をつき、ゆっくりとした声で言った。
「それで、金欲しさでガールズバー?」
 逡巡したのは数秒で、すぐに坂田は「うん」と頷いた。
「そこってアタシと同じように家に帰りたくない女の子が何人もいたんだよね。日払いだったし、女の子管理してる人も、あ、今捕まってるんだっけ、18歳ぐらいで話しやすかったから。とにかく家を出て行くお金が欲しかった」
 自分が傷ついたからといって、他人を傷つけてもいい理由にはならない。そう言おうとしてやめた。少年事件には保護的側面があるため、担当した捜査員が彼らを諭したり、叱ったりすることが多い。けれどおれは、そういうのが苦手だった。粛々と証拠をあつめ、淡々と供述をとり、正義に基づいて送検すべきだと考えていた。たとえ相手が少年であったとしても。
 それに――と自分の記憶を掘り起こして苦笑した。自分が子どもだったころ、大人の言葉を信じたか?そう問われたら、答えはNOだった。大人はみんな狡猾で、意地が悪く、嘘つきだと思っていた。
 坂田はしばらくの間おれと澤村の反応を伺っていたが、何も言われないことに拍子抜けしたらしく、肘をついて窓の外を見た。磨りガラスに格子がはまっている窓は、晴れているかそうでないかぐらいしか分からない。幸い今は晴れているらしい。朝の光が埃っぽい取調室の中を明るく照らしていた。
「あんたらは説教しないんだね。ポリなのに」
 坂田のつぶやきに、澤村が「言ってもきかないでしょ」と笑い交じりにこたえる。おれはというと、何を言うのが一番彼女にとっていいのか、考え込んでしまった。もちろん、犯した罪は償わなければならない。被害者数名は大怪我を負っているのだ。けれど、未成年とのセックスをエサにされてのこのことホテルに出向いた大人の男たちにも非がある。彼らは未遂ではなく、金を払って性交に及んでいる。性交の最中に共謀した男2名がホテル内に侵入し写真を撮っているのだ。被害者はその写真をもとに金銭を脅し取られている。
「先に捕まっている宇部と飯沼に脅迫されて性交していたんじゃないのか。もしそうなら、福祉犯的に言えば、君は被害者だ。すべて話してくれたら悪いようにはしない」
 彼女のケースは、保護処分と刑事処分のちょうど瀬戸際にある。同情すべき余地もあるが、相手に負わせたケガが重度で、おそらく示談は難しい。
「せいこうってなに?」
「セックスのことだよ。榮倉主任、言葉は分かりやすいのを選ばないと」
 澤村の言葉に坂田もおれも眉をひそめた。なにしろ言葉のノリも声も軽いのだ。子どもの人生や事件を何だと思っているのか。
「もう面倒くさくなってきたから、話すよ。こんなところにこれ以上閉じ込められてるなんて我慢できない。どうせ、少年院送りなんでしょ、アタシ」
 少年院で済むかな、と思ったが黙っておいた。不確定な話をしてはいけない。
 澤村が「ちなみにあのガールズバー、検挙したからもうないよ」と付け加えた。坂田は「えっ!」と声を上げてから机に突っ伏した。
「ひどい。あそこでしか生きていけない子もいんだよ、何の権利があってそういう場所をなくしちゃうわけ?!」
 突然起き上がった坂田が、机の上に置いてあった鉛筆を掴んでおれに向かって突き出してきた。その手をとっさに右手で払い、そのまま手首を掴んで机の上に押さえつけた。少年事件の場合、取り調べの際原則的に戒具(手錠や腰縄)は使用しないので、こうした危険とは隣り合わせだった。
「ひゅーびっくりした。さっすが榮倉主任」
 澤村はのんきに手を叩いている。坂田が「いてえな、離せよ!」と大声を上げた。目配せをして澤村に鉛筆を拾わせ、「おれがケガをしていたら罪がひとつ増えていたぞ」と伝えてから手を離す。
 坂田は肩を震わせて泣いていた。親に酷い目に遭わされている子が、唯一金銭を得ることができる場所なのだと言って涙を落とす。確かにまだアルバイトできるような年齢じゃないから、ああいった場所である種の子どもが働くケースは多い。けれど、そのほとんどは「搾取」だ。子どもゆえの無知や愚かさに大人たちがつけこみ、一方的に搾取する。
「アタシはまだいいよ。でも、エレナが……、エレナはどうなったの?!まさか、家に帰したの?!」
 捜査資料をめくっても関係者の中に『エレナ』という女子の名前は見当たらなかった。おれがそう伝えると、坂田は悲壮な声で言った。
「早くエレナを保護してよ!!あの子の家、ヤバイんだよ、殺されちゃうよ!!」
 珍しく澤村が真面目な顔で問いかけた。
「やばい?何がどうやばいの」
 せわしなく爪をかみ、貧乏ゆすりをはじめた坂田が、苛立ち交じりに吐き捨てる。
「変な実験道具にされてるって言ってた。学者が家に出入りして、変な宗教の連中とか絡んでて……、あの子、店に来る前ガリガリに痩せてたんだよ。ろくに食べ物も与えてもらえなくて」
 そこから、坂田の供述は混乱を極めた。何かにひどくおびえているようなそぶりもあった。澤村とふたりで説得し、安心させながら、なんとか自供を得ることができた。

 ぎりぎりのところで刻限に間に合った。その安心感で油断していた。
 家裁を出てしばらくしてから、尾行されていることに気が付いた。腕時計を見る。18時を過ぎたところだった。
 澤村とは家裁の前で別れていた。夕飯に誘ったが「女の子と約束あるんス」と断られ、今日はひとりで食べなければいけないことに落胆していたので、気づくのが遅れてしまった。
 兄の指摘は事実だった。夕食をひとりでとるのが怖いのだ。
両親のことが原因かもしれない。あのあたりの記憶はかなりぼやけているが、夕食の匂いと血の匂いが入り混じっていたことはやけにはっきりと覚えている。嗅覚の記憶は長い間残りやすいらしい。
物音に目を覚ましてリビングへ行くと、扉が開いていた。そのとき見えた、窓の外の深い闇と、蛍光灯に照らされた血まみれの……――
 尾行を巻くか、正体を突き止めるか悩んだが、空腹で、ひとりで相手をするのは危険かもしれないので(捜査員には命を狙われるような危険がつきものだ)、巻くことにした。普段乗らないバスに乗り、通勤ラッシュの人混みに紛れようと考える。
 裁判所前の停留所にバスがやってきた。尾行相手は変わらぬスピードで後ろをついてくる。通勤に使っているらしい人々の長蛇の列を横目に見ながら通り過ぎるフリをして、ドアが閉まる直前にバスに飛び乗った。
 それから電車に乗るときも何度か乗り降りを繰り返し、普段とは違うルートで自宅へ向かった。尾行の気配は消えていた。理由も相手も思い当たらず、足早に自宅を目指す。
 このままだと隣駅まで歩いて牛丼屋か、家の近くのカレー屋になりそうだ。人の気配のある場所ならどこでもいいのだが(夜、自宅で一人じゃなければ)、それならもう少し飲食店に恵まれた場所に住めばよかった。
「逃げるなんてひどいじゃない、ひらちゃん」
――後ろからかけられた声に深く息を吸い込む。おれを「ひらちゃん」と呼ぶのはこの世界でたったひとりしかいない。「啓(ひらく)」だからそれほどひねったあだ名じゃないが、おれはどう見たって「ひらちゃん」という雰囲気ではない。
 さっき吸いこんだ息を、ゆっくり吐き出しながら振り返る。
「……月子さんだったのか」
 まさか、被疑者の弁護士に尾行されているとは思わなかった。しかし彼女ならやりかねない。おれの童貞を思いつきと兄への意趣返しだけで奪っていった破天荒な女なのだ。
 低めのなめらかな声とマッチする、落ち着いた切れ長の目が細めたまま近づいてくる。
「至が異動してこっち来てるんだって?ひらちゃんを家に呼んでも来ないから、連れて来いって言われてね。でも用件伝えたら君、来ないだろうし。被疑者の弁護士と行動をともにするのは…なんてもっともらしいこといって断るだろうから、探して追いかけて待ち伏せしたの」
 さらりと犯罪じみたことを言われて、思わず彼女のコートの下に見えているジャケットに視線を飛ばしてしまった。曲がりなりにも弁護士のセリフとは思えない。あの弁護士バッチは偽物か?
「おなかすいてるでしょ?ご飯できてるから、食べに行こう」
「自分が作ったみたいな言い方するな。兄貴だろ、作ったのは」
 料理なんかしたっけ、と思いながらそう言うと、月子さんはあっけらかんと言い放った。
「まさか。至が料理なんかするわけないじゃない。至の婚約者だよ、こっちに家買ったって……何も聞いてないの?」
 驚きすぎてめまいがした。情報量が多すぎる。
「ちょっと待った……、兄貴が婚約した?誰と」
 月子さんはおれの3つ年上で、兄の4つ年下になる。たしかおれが6歳のころ、三軒となりの家に引っ越してきた。9歳の聡明で美しい少女。それが彼女だった。憧れていたのもつかの間、気づいたら月子さんは兄の恋人になっていた。兄が防衛大学校に入学してからも関係は続き、何度もくっついたり離れたりしながら、とうとう先日本当に別れたのだと聞いたばかりだった。
「月子さんはそれでいいの。20代のほとんどを兄貴に費やしたのに」
 おれの言葉に、月子さんは少ししらけたような、つめたい顔で笑った。
「至は誰と付き合ったって一緒だからね。全部二番手。一番にはなれないから別にいいの。むしろそれに気づいてないのだとしたら相手の女性が気の毒だよ」
 兄が婚約。それも月子さん以外の女と。
「理解できない。別れたときあんなに泣いてたじゃないか。――それに、相手の女性だって月子さんが来たらいい気分しないだろ」
 帰る、と言って月子さんを振り切るために走ろうとすると、彼女に強く腕を掴まれた。
「ひらちゃん、お願い。一緒に来て。連れて行かないと私も至に会えない」
ひどい話だ。怒りと苛立ちで眉間に皺が寄ったが、感情を殺すために溜息をついた。
「一体あの男のどこがいいんだ」
 やけにしみじみとした声になってしまった。まるで僻んでいるようで恥ずかしくなって、首をすくめてコートの襟に顔を埋め、俯いて歩く。月子さんの命令やお願いには逆らえない。これは昔からしつけられたことで、だからどうしようもなかった。
「至の魅力が分からないのはひらちゃんだけだよ。あいつからは女をダメにするオーラが出てるから。身内以外は免疫ないからコロリとやられちゃうってわけ」
 冷たい風を避けるために、コートのポケットに手を入れる。月子さんは自然な様子でおれの腕につかまり、肩を寄せてきた。冬の寒い日に鳩が寄り添い合って膨らんでいるときのように、ただ純粋に暖を求めているのだ。
男として意識されていないことに苦い気持ちになる時期は過ぎたので、好きにさせておいた。
「顔か?まあ顔はいいよな。兄弟だっていうのに全く似てない」
 啓は子どものころ美少年だった、とよく兄が笑いながら言っていたが、今のおれはそれからほど遠い。
 兄の至は『美丈夫』という言葉がぴったり似合う男だ。それなりに上背があるおれよりも背が高くて、立派な体躯をしているのに顔立ちは美しく、全身から自信をみなぎらせている。
「ひらちゃんだって悪くないよ。目力が強くてかっこいいと思うよ。でも健康優良児って感じで、少し男としての色気に欠けるかな」
 丁寧に否定されて肩を落とす。
やっぱり弁護士は嫌いだ。心の中でそう恨み節をつぶやき、冷たい月の下を歩く。あたりはしんとしていて、寂しい冬の匂いがした